2020年代のAIソフトウェアビジネス5ヶ条

「AIブーム」もこなれてきて、いろんなソフトウェアベンダが「もう少し突っ込んだテーマ」を探しているように見えます。

本記事では2020年代のビジネスモデルとソフトウェアをどう作りどう使ったらよいか、その考え方について5箇条という形で書いてみます。


第一条 ドメイン知識を「APIを組み合わせるノウハウ」に変換すべし

GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)がグローバルプラットフォームの上で安価なAPIを提供してくれるようになったおかげで、ソフトウェアを作ることはAPIを組み合わせてインタフェースを作ることとほぼ同義になりました。

もはや、世の中の99%の企業にとって「AIは作るものではなく使うもの」になりました。「AIを使うノウハウが大事」な時代になったことは自明でしょう。それはすなわち「APIを組み合わせるノウハウ」のことです。

APIの裏側で動く高度な数学の知識を知る必要は99%ありません。


大事なことはAIの仕組みというより、「APIの機能」を理解できるエンジニアがいて、自社の業務をそのAPIを使って自動化することです。


AIに詳しくない経営者にオススメなのは、GAFAが提供しているAPIの機能について、エンジニアに調べて報告させて、それらを組み合わせて自社の業務を自動化する方法を考えることです。もしくは、エンジニアに業務の全体フローの概要を教えて、APIの組み合わせて自動化できる部分がどこかにないかを検討させることです。

そういう取り組みは、1,2年では目に見える会社の業績に表れることは少ないかもしれませんが、今後の10年くらいでボディブローのように効いてきます。

 

第二条 無人ビジネスが標準で、有人ビジネスは「プレミア版」と考えるべし

これまでにも当然、自社の商品やサービスをWebやアプリ(eコマース)で売ったり、サポートをインターネット(WebサイトとかメールとかLINEとか)で行ったりというチャネルのオンライン化には取り組んできていると思います。

しかし、2020年代に重要なのは、そういう部分的なオンライン化ではなく「完全なオンライン化」です。

それは本質的に以下の自明な2つに起因します。

  • コロナ禍や少子高齢化のせいで「人が移動するコスト」が相対的に深刻化した
  • 完全無人化(AI化)の前段階としてそもそもビジネスが完全にオンラインである必要がある

コロナ禍で人が動きにくくなったり、少子高齢化のせいで少ない労働人口で経済を回していかなければならなかったりと、「人の移動コスト」は今後大きくなる一方です。

なので部分的に「人が動く」、すなわち「完全オンラインではないチャネル」は今後むしろ「人が動くというプレミア価値」を上乗せしたビジネスモデルに移行していく必要があります。

つまり、人件費を不可避のコストとしてみるのではなく、完全オンライン化・完全AI化によってコストをゼロにし、むしろ人件費を「プレミアサービスの構成要素」ととらえる視点が必須となります。

同じこともう一度言うと「多くのビジネスが無人化していくのが当たり前の時代」において、「人件費とはコストではなく付加価値の構成要素」です。

 

完全に無人化されたビジネスの時代において、売り手に人が関わることは「むしろプレミア」になります。そうなったときに、そのプレミアが具体的にどうのような付加価値を提供するものになるのかを、今のうちから考えて試行錯誤し、自社にあったプレミア価値というものを早期に見出していく必要があります。

これはAIや数学の問題というよりも、むしろ人間科学や哲学思想の分野に帰着される問題です。自社の商品にとって、それを無人で売ることと有人で売ることの間に「本質的にどんな違いがあるのか」を徹底的に思考・検証し、それにふさわしいソフトウェアがなんであるか考えて、導入や開発をすべきでしょう。

 

第三条 良い機能よりも「良いインターフェースにお金を使う」べし

APIGAFA等の大手プラットフォーマが提供したものを使うだけで99%事足りるのでした。

さらに「ソフトウェアの機能」の重要性も今後薄れてきます。

DXとかデジタルトランスフォーメーションとか言われていますが、これは要するに企業の業務フローやビジネスモデルをソフトウェアとつじつまが合うように再構築することがこれからは大事で、なぜならソフトウェアの機能によって解決できる部分はここ30年ほどで大体解決してしまったからだ、ということですよね。

例えば、エクセルの無い時代に経理担当者が紙で簿記をしていたら、エクセルという表計算「機能」を持つソフトウェアを導入することで、効率を大きく向上させることが出来ました。

商品在庫や受発注などの記録を紙で処理していた時代に、ERPやデータベースという機能を導入することで、効率化が進みました。

そうしたこれまでのソフトウェアの導入において注意すべきなのは「自社の業務モデルを本質的には変えていない」ことです。インターネットやWebの普及で、新たにヤフーや楽天やLINEといった大手が生まれたのは、それまでの大手がビジネスモデルを大きく変えなかったことの証拠でしょう。

 

そういう感じでソフトウェアベンダーはこれまで、多くの会社の業務に共通するような機能を開発し、多少のカスタマイズを加えて提供することで儲けてきました。

そういうパイがなくなってしまったため、企業の根本的な業務モデルの変革を訴えて、そこにソフトウェアを差し込もうということでDXとかデジタルトランスフォーメーションとか言ってるわけです。

それは確かにソフトウェアを売りたいベンダ側の「勝手な都合」でもありますが、実際問題としてDXは確かに「やるべきこと」です。

 

その時に大事なのは、機能ではなくインタフェースが持つ付加価値にお金を使うことです。

第一条でも言いましたが、機能の99%はGAFAが提供するAPIを使うことで実現されます。

 

それでも世の中のソフトウェアはベンダがベンチャーであるか大手あるかは問わず、いろいろな機能を売りにしています。ぶっちゃけそれらの「機能の違い」は、GAFAが提供するAPIから見たら1%くらいの違いしかありません。

どのベンダも同じようなAPIを使って機能を作りこむので、実際にソフトウェアが役に立つかどうかは、「インターフェースの違い」によってもたらされます。

もし新たに自社業務で自動化したい、あるいはソフトウェアを導入して付加価値を高めたい部分があったなら、製品やサービスを選ぶときにインタフェースの良しあしで選ぶべきです。

 

もちろん、自社独自で専用のオリジナルシステムを外注開発することを検討しても良いでしょう。機能の99%はAPIで安価に使える時代なので、「使いやすいインタフェースを作ることに」コストをほぼ全振りすることで、巷の製品やサービスよりも(自社にとって)使いやすいものが出来上がる可能性は低くありません。

仮にGAFAAPIを全く使わなかったとしても、ソフトウェアを開発するときに最もコストが掛かるのは機能ではなくやはりインタフェースの部分です。APIがなくても、オープンソースの「無料ライブラリ」がもう溢れかえるほど存在するので、ソフトウェアを作ることはそれらの無料ライブラリを組み合わせてインタフェースを作ることとほぼ同義です。

 

第四条 「自社がシェアNo.1のカテゴリ」を見出すためにデータを分析すべし

顧客満足度No.1」という宣伝文句をよく見かけます。これはあるカテゴリの商品においてライバル商品よりも好評だということでしょう。

しかし、そもそも商品のカテゴリというものはいくらでも細分化することが出来ます。例えば、男性用化粧品を製造するメーカは、化粧品市場全体から見れば比較的小さな存在かもしれませんが、もし男性用化粧品で一番売れていたらシェアトップなわけです。そして、男性用化粧品でもトップではなかったら、さらにカテゴリを細分化することで、自社がシェアトップになるようなカテゴリを必ず見つけることが出来ます。

 

なぜなら、自社の商品を買ってくれる人は「その人にとっては」他社の商品より自社の商品のほうが良かったわけですから。

そういう顧客が一定数いる限り、その顧客集団こそが「その商品がトップであるカテゴリ」です。

 

この当たり前の事実は、AIソフトウェアの時代に意識すべき重要な事実です。自社がトップであるということは、(小さいかもしれないが)そのカテゴリにおいて「GAFAよりも強いデータを持っている」ことになるからです。

グローバルでないローカルなビジネスが、グローバルプラットフォーマに食われないで生き残れる理由のほぼすべてが、そこにあります。

企業にとってのデータ分析には、コストを減らす目的と、インカムを増やす目的の2つがありますが、インカムを増やす目的で行うデータ分析のほとんどが、この「自社がトップであることを示すデータ」を中心として行われます。

 

データ分析という技術は、発想の飛躍とかひらめきとかをもたらすことが出来ず、今存在する事実をあぶりだして横に広げることしかできません。強力な技術ですが、万能ではないわけです。

 

自社がどのようなカテゴリでNo.1なのか?、仮にそれが分かったとしたら、なぜNo.1なのか?、そしてそれをさらに広げるにはどうしたらよいのか?そういうこと調べるときにはデータ分析という技術を強力な道具です。

もちろん、在庫管理の最適化や人事管理や財務管理といったコスト面での最適化にデータ分析を活用することも大事です。

しかし経営者にとってより興味があるのはコスト削減よりもインカムの増大のほうなのではないでしょうか?

 

第五条 自社で育てたAIを再販するソフトウェアベンダを目指すべし

例えば園芸用品を扱うEコマースを経営していたとします。個々の園芸用品は安価なものが多いかもしれませんが、Eコマース上にコミュニティを作り、園芸発表会やノウハウの講習会などの付帯サービスのほうで儲けるようなビジネスモデルで結構うまくいっている(社員十数名で年商数億で利益が数千万とか)とします。

このビジネスモデルは園芸用品だけに限定されるものでしょうか? 本当にそのような会社があったら、すさまじいポテンシャルを秘めています。

まず、園芸は「高齢者でも出来る趣味」であり、部屋に鉢植えの観葉植物を飾ることも含めて広い意味で園芸とみなすならば「敷居の低い」鉢植えから、「敷居の高い」咲かせるのが難しい花まで幅広い顧客を持っている可能性があります。新規の顧客をつかんで育てて定着させるノウハウを持っている可能性が高いです。

 

ではちなみに、GAFAは「高齢者でも出来る趣味を題材としたビジネスに特化したAPI」を作るでしょうか?

私は、作らないと思います。もしやるとしたら、もっと世界中の高齢化社会という状況に共通に当てはまるような何らかのグローバルインフラを作り、そのAPIの一つを作るという流れになると思います。


どんなビジネスも、それが成立している(かかる経常的なコストよりも入ってくる経常的な収益のほうが大きい)限り、そこには客観的な論理によって説明できる理由があるはずです。

もし、なんだかわからないがうまくいってる、という場合は、(第四条に書いた通り)今すぐその理由を分析すべきです。


これまでの時代のソフトウェアの機能は、ビジネスモデルに依らない業務、どんなビジネスモデルにも必ず存在するような業務に対して効率化をもたらすものでした。

しかし今後、2020年代における高付加価値なソフトウェア機能とは、より個別のビジネスモデルのパーツレベルまで切り込んだ機能を提供するものになります。

 

「高齢者でも出来る趣味」を扱ってる企業なら、顧客の可処分所得の分布やECサイトアクセス時間から分かるインターネット接触時間、初めて商品を買ったときから定着するまでの王道パターンといったノウハウがロジカルに蓄積できることでしょう。

 

それをAPI化してソフトウェアビジネスとしてさらに儲けることができます。

2010年代に、垂直SaaSが有望テーマだといわれました。実際に薬局向けのSaaSを提供して儲けているSaaSベンダいたりとか、垂直SaaSは今後も有望な分野です。

そこまでの「専業ソフトウェアサービス業者」にならなくても、再販可能なソフトウェアのパーツを作ることは可能な時代になっています。何回も繰り返しになりますが、GAFAAPIを組み合わせるだけだからです。

 

顧客をそのまま横流しすることはWebのクッキーマッチングの倫理や個人情報保護の観点から好ましくありませんが、「高齢者趣味ビジネスにおける顧客育成理論」をソフトウェアとして実装することは問題ありません。

これは、GAFAにも作ることができないし、大手のソフトウェアベンダにも作ることができない(作っても相対的に売り上げが小さいから作らない)でしょう。

「顧客育成理論」や「顧客状態推定理論」、「顧客コミュニティ運営理論」といったソフトウェア化可能なロジックは至る所で見出すことが可能です。

自社商品を使った趣味の成果を披露するコンテストはどのくらいの頻度で開催したらよいでしょうか?年1回でしょうか?半年ごとでしょうか?オンラインでやるべきでしょうか?リアルな場所をセッティングすべきでしょうか?

こうしたノウハウは、GAFAが提供するAPIを「使って作られるAI」に蓄積され、それは再販が可能なAIになるのです。


このようにAIは階層構造を持っていて、GAFAが提供するのはその最上位層の機能なのです。

 

究極的には、自社商品の提供はぼぼ利益ゼロで、専らデータを集める、顧客実験の環境を作り上げることだけを目的にし、実際の儲けはそうやって作ったAIの再販によって得るというモデルも実現不可能ではないでしょう。

もしそのようなモデルで儲けることが出来たら、それはまさに2020年代の最先端を走るやり方であり、メディアに無料取材させることで無料で多くの人に宣伝し、さらにそのAIの再販を加速することが出来るでしょう。


というわけで

ところどころかなり極論が混じってますが「当たらずとも遠からず」という印象を持ってもらえたのではないかな?ということで書いてみました。

 

ではまた!