真心があれば気の利いた言葉なんて要らないのかも

この週末は、鎌倉に一泊二日旅行に行ってきました。初日の昼は鎌倉の低い山林のよく舗装された道をハイキングし、江ノ電に乗り七里ヶ浜へ足を運んで浜辺を散策しました。

 

夕日を背にむけて帰るのが名残惜しくて、沈む陽をみながらほぼ反対歩きで鎌倉高校前駅までたどり着き、プラットフォーム前に広がる水平線の大パノラマを当たり前のように無視して友達と輪になっておしゃべりする地元の高校生たちに少しだけうらやましさを感じつつ、江ノ電に乗って長谷駅に戻ったあと、宿の最寄りの停留所までバスで向い、ドラッグストアで軽くお酒を買って鎌倉ゲストハウスに到着しました。

 

ここは個室もあるけど僕はいつもドミトリーで、同日に来てるお客さんと囲炉裏端でお酒を飲むのが楽しみな宿です。約1か月ぶりの訪問でしたが、前回顔見知りになったお客さんも幾人かいて、今回もとても楽しい時間を過ごすことができました。

 

そのお客さんの中の一人、もはや常連客中の常連客だそうなJさんという30ちょいの青年が前回顔見知りになって今回もたまたま宿泊日が一緒で、前回同様に彼は日本酒を差し入れがてら買って持ち込んで周りの客にタダでふるまうというサービスをしていて、僕もご相伴にあずかりました。

 

Jさんは少しパーマの掛かったロンゲの一部をレッドに染めていて、シュッとした顔立ちのちょっとしたイケメンで、いかにも美大やクリエイティブ系の職業の人にいそうなタイプのナイスガイです。しゃべり方はあんまりハキハキとした感じはなく、どちらかというとボソボソっとしゃべるタイプで、みんなにお酒をふるまいつつ、同じく常連客である他のお客さんやゲストハウスのおかみさんとのおしゃべりを楽しんでいました。

 

Jさんはニコニコすることもないし怒った表情をすることもなく、いつも平然とした表情で、相手と話をします。でも、彼が相手のことをものすごく思いやるやさしい性格であることはきっとみんなが感じていて、常連客からも宿のスタッフからも、そして僕みたいな一元様に毛が生えた程度のお客からも「Jさん、Jさん」と気軽に話かけられてはボソっと気さくな言葉を返してくるような人です。

 

僕自身もおしゃべりは好きなほうだけど、Jさんとは違ってガンガン自分の思った事や考えたことや相手が言われたら喜びそうな内容の話を早口に「主張」していくタイプなので、そのJさんとは「コミュニケーションのテイスト」がいわば真逆です。

 

Jさんはお酒をふるまうために、なんと専用のグラスセットまで用意してきました。日本酒にも純米酒、や吟醸酒、濁り酒や生酒、スパークリングワイン的に炭酸発酵を強めた日本酒、と種類が色々あります。Jさんはその色んな種類のお酒を1本ずつ買ってきて、それぞれのグラスにマッチするお酒を注いでいました。その多くのグラスは見た目はワイングラスのような形状のものです。

 

一通り味見させてもらった後、グラスを片付けずに宴会は続いていったので、僕はそのグラスでまた別の人が持ち込んだ赤ワインを飲み始めました。他のお客さんとおしゃべりしながらワインをチビチビやってたらJさんが(トイレかな?)僕の前を通りがかったので、

 

「Jさん、これワイン入れちゃった、ごめーん」

 

と半分からかい気味に言葉を投げたら、Jさんは僕の肩をチョンとタッチしながら

 

「ダーメ。ちゃんと使ってよそのグラス。」

 

と、お馴染みのボソっとした口調で言葉を返してきました。それで、知り合ってせいぜい二晩の顔見知りでしかない僕みたいな「他のお客さん」に、そうやって気さくに言葉を返せるJさんって凄いなぁと彼を尊敬する気持ちを抱いたのでした。

 

他人と仲良くなるために「気の利いた言葉」とか「相手を理解しようと努力する」とかはいらなくて、Jさんのように「相手に心を開く」ということが大事なのだなぁと改めて思ったし、そういうことが自然にできるJさんの美点を見て、僕もそういう風になれたらいいなと感じたのでした。