哲学の意義が分かんなかった高校生時代の俺へ

俺(高校生時代の自分)「人文系とか哲学とか意味なさすぎワロタwww 数学できないから曖昧さに逃げてるだけじゃんwww」

私(今の自分)「ほう。君は数学や物理が好きな理系なのだね。」

俺「そうだけど?哲学とかマジ無駄じゃね?宇宙の究極の物理法則を解き明かす学者だけいれば他はいらないっしょ?まぁ人工知能も計算機が速くなればそのうち出来るっしょ」

私「なるほど。で、君はその究極の法則とやらを解き明かしたいのかね?それは人類がいつかは解き明かせるという見込みがあると信じてるのかね?」

俺「それはさぁ、科学はどんどん進歩するんだからいつかは絶対解き明かされるはずじゃん?違います?」

私「ふむ。そういう考えは、確かに一つの立場としてありうる。」

俺「ん?他にも科学的に訪れる未来があるっていうの?」

私「まぁ、どこまでいっても究極の法則がわからないというケースはもちろんありえるな」

俺「それは、究極の法則なんて無いということ?」

私「まぁそんなところかな。そもそも法則を『あたらしい出来事』に毎回当てはめるのは人間だしな」

俺「ふーん。まぁ確かにニュートン力学が出来上がる前からみたらニュートン力学は完成した究極の理論みたいなものだし、アインシュタイン相対性理論だってかなり究極に近いけど説明できない物理現象が残ってるのだから、未来にまた革命的な理論が作られてもさらに『それでも説明できないこと』が出てくるのは考えられるか」

私「そうなんだよ。お前はなかなか飲み込みが早いな。そんな調子で大学行って暇なときに哲学の本とか読めばお前は面白がれると思うぞ、保証する。」

俺「でもさ、物理法則じゃなくて人工知能はどうなのよ。哲学者ってプログラム書けないくせに偉そうに認識のメカニズムがどうのこうのとか語るじゃん?あれ本当にちゃんと考えてんのか疑問なんだけど。ファッションで『なんちゃって理論』を並べてるだけなんじゃないの?」

私「ふふふ、お前は本当に『いま、この時代の科学のこと』しか知らないのだな。まぁ無理もない、高校生とはそういうものだ。では先ほどと似た話になるが、コンピュータの性能が進歩すれば『いずれは人間の知能』あるいは『人間の意識』がコンピュータ上に実現すると考えているのだな?」

俺「そりゃそうでしょ。人工知能は理論的には可能で、コンピュータの性能が足りないから実現してないだけじゃないの?違うの?」

私「お前のような頭の中がお花畑なやつ、嫌いじゃないぞ。とりあえず教えてやろう、 『真の人工知能の理論的な可能性』はまだ全く示されていない。そもそも知能や意識といったものが科学的にちゃんと定義されてもいない。」

俺「だから数十年前の偉い科学者が、チューリングテストとか色々考えたわけでしょ?俺知ってるよ。そういうのだって科学的にどういうテストや実験をすれば知能や意識の存在を確かめられるか、きっと分かるようになるよ。それも科学者が考えるんだよ。」

私「ふむ、お前なかなか頭が良いな。本質的な議論に近づいてきたな。じゃあ聞こう。その『テスト方法を考える』自体はコンピュータの性能の進歩とは独立、『いますぐ考察できる』テーマだと思わないか?」

俺「あ、そうだね、確かに。でも世界中の科学者の知性を総動員してるのに今のところ良い答えが見つかってないのは不思議かも…。」

私「そうなんだよ。まぁこの際ハッキリ言ってしまえば、科学という『知の方法論』の上でそれを考えるという『縛りゲー』をしてる限り無理なんだろうな」

俺「え、科学者には『本当に知能や意識があるかを実験で確かめる方法』が考案できないっていうの?科学って今の人類の豊かさを支えてるんだから、そんな限界があるなんて言われても納得できないよ」

私「そう思うのも無理はないだろうな。でも科学者はそれを数十年必死で考えたと思うぞ。お前なんかよりはるかに頭のいい学者が総動員で考えてもまだわからないんだ。この事実をお前はどう思う?」

俺「そっかぁ。最初の物理の話となんか似た話になってきた気がするよ。」

私「ハハハ、お前は素直でよろしい。じゃあ、人類は人工知能の夢をあきらめるのかな?」

俺「うーん、可能か不可能かわからないことにエネルギーを注ぐのは無駄な気もするけど、なんか作戦を変えて出来ないのかな?さっき言ってたけど科学がだめなら例えばみんなの投票で『こいつは意識があるぜ』みたいなのを多数決で決めるとかさ」

私「それも一つの方法だな。でもそれは社会制度による運用すなわち政治的な解決手段であって、人類の知を使った手段ではないな。」

俺「じゃあ、何か方法があるの?」

私「ようやく最初の話にもどることが出来たな。それが哲学なんだよ。実験や観察などによって確かめることのできない対象にも、人間は思考を及ばせることができるんだ。その究極形は『形而上学(けいじじょうがく)』と呼ばれている。」

俺「ふーん、それって宗教みたいじゃない?」

私「宗教性が皆無だとはいわないが、宗教とは違うんだ。宗教は教義によって『真理』をアプリオリ天下り的)に定義してしまうんだ。でも哲学や形而上学は違う。人間の知、特に言葉や文章(テクスト)を使って『どのくらい真理性があるか』を吟味していくんだ。それは科学と違って一方的に積みあがっていく保証はなく右往左往することもあるし、後退してるようにみえることもある。でも、哲学という人類の知はそうやってどんどん『洗練』されていくんだ。進歩だけが未来じゃないんだ。哲学とはそういうものだ。」

俺「へぇぇ。なんか、科学がすべてだと思ってたけど、いろんな考え方があるんだね。結構それも面白そうって思ったよ。ところで、オジサンは誰なの?」

私「ようやくそれを聞いてくれたか。実はな、私はお前の未来の姿なのだよ。」

俺「えっ(ドン引き)」

私「えっ(ドン引き)」