語彙力シリーズNo.1 「機序」

今日は新しいテイストの記事を書いてみます。

 

日本語の語彙をみんなで増やしていこう!という趣旨のシリーズ第一回として、「機序(きじょ)」という言葉を取り上げてみます。

 

機序とは?

この言葉は、とくに「作用」という言葉を伴う「作用機序(さようきじょ)」という熟語で使われることが多いです。作用機序は典型的には「薬が効くメカニズム」を指すときに使います。

これに代表されるように、機序という言葉は医事・薬事(いじ・やくじ)において使われることが多いです。

 

機構や機能と何が違うのか?

機構という言葉には、何か静的な事物であって、仮に動きがあってもその動きの前後で変化せずもとに戻る、というニュアンスがあります。

例えば、社会的な組織で「何とか機構」みたいな団体があったりしますが、それは何らかの社会的機能を持っていたとしても、その機能を果たすことでその組織自身が変化してしまうことはふつう想定しません。

 

機能という言葉は、「能」という漢字が持つ「能動的」「主体的に働きかける」をニュアンスとして強く含んでいます。逆に言うと、機能する対象のほうが「受動的」であるというニュアンスも含むことになります。

例えば自動車でしたら「人や物を運ぶ」という機能がありますが、自動車の機能の対象は、「人や物」「出発地や目的地」になりますが、これらの対象はそれ自体では能動性をもっていません。また例えば車のハンドルには運転者の手動操作を車の動力機構(ここは機構という言葉ですね!)に伝えるという機能がありますが、この「伝えるという機能」を主体的に果たすのはハンドルであって運転者ではありません。(運転者は単に操作をハンドルに示しただけで、タイヤにそれを伝えてはいません)

 

それに対して、機序という言葉には、機構と比べて「働きの前後で状態が変化する」というニュアンスを持つこと、機能と比べて「主体が能動的に何かに働きかける」というニュアンスが薄く「主体や対象といった区別を超えた全体図を指し示す」ニュアンスがあること、という違いがあります。薬の作用機序というのは、薬そのものに機能があるわけではなくて、生体にもともと備わっている仕組みをうまくテコ入れすることで全体として望ましい働きをさせているのだ、ってわけです。

 

「機序」を使う場面

特に生理的なメカニズムについていう時にはピッタリの言葉です。(物理法則に基づいて動く)機械や(法律などルールに基づいて運用される)社会的組織と違って、生体内の仕組みは何かが働くと状態が変化することが多いためです。

 

なのでそうしたニュアンスをふまえると、比喩的に「機序」という言葉を(例えばビジネスでの提案書などを想定して)使う場面としては、説明したい事柄が生理現象によく似ているようなケース、薬の開発が生物の体内という複雑で変化に富むものを相手取るために正当性があくまでも経験則(治験とか)にゆだねられがちであるのに似た現象を説明したいようなケース、などが相応しいでしょう。

 

というわけで

また次の言葉でお会いしましょう。

ではまた。